XHTML から HTML5 で、大きめな思想的転換のあった HTML であるが、2019年5月28日の W3C と WHATWG の合意によって、これ以降は WHATWG の策定する HTML が唯一の現行版であることが決定した。
そして、この WHATWG の策定する HTML は、継続的にメンテナンスされて、Living Standard と呼ばれる。
現在、Web で「HTML5」と検索すると、「HTML5 廃止」という候補が出て来ることがあるが、WHATWG の HTML Living Standard を読んでみると、1.2章 Is this HTML5? では、"In short: Yes" と言っている(2023年1月11日版の情報)。
私は、W3C と WHATWG の歴史に特段詳しかった訳ではないので、この際、自分にとって必要な範囲で調べてみた。
W3C は、World Wide Web の生みの親 Tim Berners-Lee 本人が創立した団体である。HTML だけでなく、XML など Web に関する標準化を行っている。
HTML4 の標準化を行ったのも W3C だが、その後、W3C は、XHTML という HTML の XML 化を敢行する。
それに対して、Apple、Mozilla、Opera というベンダー達は、HTML は HTML として発展させる方向で、WHATWG を結成した。
更にその後、W3C は XHTML から方向転換して、HTML5 を勧告した。この辺りの経緯は、W3C 、WHATWG 双方の発表に微妙な相違があるように感じられる。W3C としては、WHATWG 側に妥協したという気持ちもあるだろうし、WHATWG としては、自分達の方向性に W3C が後から乗っかって来たという気持ちがあるのだろう。
一旦は、W3C と WHATWG の協調というか妥協の産物として成立した HTML5 だったが、両者の溝は埋まらず、遂に HTML の主導権は WHATWG に移ったというのが真相のようである。
だから、HTML Living Standard は、HTML5 から思想的転換があったというよりは、HTML5 の精神を推進して来たのはむしろ WHATWG であって、"Living Standard"という名称には、現場で使われている HTML が標準なのだという意味合いが込められているように思われる。
この流れ、どこかで見覚えがあるのだ。リレーショナルデータベースの世界である。
リレーショナルデータベースを発明した Edgar F. Codd と共にリレーショナル理論の普及に努めた Chris Date は、SQL が現場の声を取り入れて肥大化し、もはや、リレーショナルモデルとは似ても似つかぬものになって行くのを嘆き続けた。ベンダーとしては、純粋なリレーショナルモデルであることが目的なのではなく、ユーザーの求める機能を提供するのが仕事なのだという言い分もあるだろうが、Date や Berners-Lee のような「思想強め」な技術者も私は好きである。
英語版 Wikipedia の"Null(SQL)"の項目の盛り上がりを見ても、「純粋なリレーショナルデータベースの実装を」というムーブメントが、多数でないにせよ熱心な信奉者に支えられていることが垣間見える。
さて、HTML はどこへ向かうのか? その昔、MathML も SVG もレンダリングできる Amaya というブラウザもあったし(現在は開発はストップしている)、XML を XSL-FO で変換するApache FOP というプロジェクトもある(こちらは、開発が継続しているらしい)。