食塩水問題

食塩水問題とは、次のようなものである。

例題(1) 5%の食塩水600g に10%の食塩水を混ぜて、7%の食塩水を作りたい。10%の食塩水を何g 混ぜればよいか。

このような問題は、いまだに中学入試の算数や中学校に入ってからの数学で出題されているらしいのだが、ここでは、問題の解き方ではなくて、「何々%の食塩水」(上の例では「5%の食塩水」や「10%の食塩水」、「7%の食塩水」)とは何かについて検証してみたい。
出題者の意図としては、「5%の食塩水600g」と言えば、(水+食塩)600g で、600g の5%すなわち30g が食塩、残りの570g が水である。
そんなこと決まってるじゃないか? そうだろうか?
次のような問題を作ってみた。

例題(2) 水に20%の食塩水を混ぜて、食塩水600g を作った。この食塩水の塩分濃度は3%だということがわかったとする。元の食塩水の塩分濃度は何%か。

この場合、「20%の食塩水」は、水に対する食塩水の割合と読めないだろうか? もし、元の水の20%の質量(小学生向けだったら重さでもよい)の食塩水を水と混ぜるのであれば、水500g に食塩水100g で合計600g の食塩水を作る。この食塩水に含まれている食塩は、600×0.03で18g である。この食塩は、元の100g の食塩水に含まれていたものであるから、18/100で塩分濃度は18%である。
だから、「10%の食塩水を混ぜて、云々…」のような問題を前にしてフリーズしているように見える子供がいた場合、この子は「文章題が苦手だ」とか「割合の計算が出来ない」とか「国語力がない」とか決めつけないでほしいのである。「何々%の食塩水」とは何の何に対する割合を言っているのか、という真っ当な疑問を抱いているかもしれないからだ。私から見れば、国語力がないのは出題者のほうである。

例題(3) 消費税8%の商品540円と消費税10%の商品330円を買って、合計870円支払った。この内、消費税はいくらになるか。

答えは、70円である。消費税の場合、税抜き価格に税率を掛けたものが税金で、それに税抜き価格を足したものが、支払総額だからだ。
食塩水問題の出題者は、一部の生徒が(食塩/水)で濃度を計算するという間違いをすることを想定している(嫌な言い方をすれば、期待している)。しかし、消費税の場合は(税金/税込み価格)ではなくて(税金/税抜き価格)が税率で、食塩水の場合は、(食塩/(水+食塩))が濃度だというのは、知識の問題であって、算数や数学の問題ではない。

例題(4) アルコール度数30の泡盛50ml を水150ml で割った。出来上がった泡盛の水割りのアルコール度数はいくらか。

この問題には、いくつかの論点がある。先ず、アルコール飲料のアルコール度数は、体積で計ったアルコールの割合なんだそうである。よって、アルコール度数30の泡盛50ml に含まれるアルコールは、0.3×50で15ml。そして、泡盛50ml と水150ml を混ぜた時の体積は、正確には50ml と150ml を足した200ml にはならない。アルコールを水に溶かした場合、元のアルコールと水の体積を足したものよりも少し小さくなる。どれだけ小さくなるかの情報が与えられないと、この問題は解けないので、このような問題が算数や数学の問題として出題されることはないだろう。
翻って、出題者は答えが出るように問題を作成しているはずだということを鑑みれば、例題(1)のような問題では、食塩水の単位はグラム[g]で出題されているのだし、食塩を水に溶かした時の体積も食塩の体積と水の体積を足したものにならないのだから、食塩水の濃度は質量(小学生だったら重さ)で計算するのだなということが推察できる。
しかし、そのような訓練を子供にさせることは、出題者の意図を忖度する小賢しい受験生 → この教授にはこういうレポートを書けば単位が来る&就活ではこういうキャラを演じれば内定がもらえる、という傾向と対策で世渡りする大学生 → 課長「みんな遅くまで頑張ってるんだよ」、新人〈サービス残業しろってことだな〉と自主的に会社に服従してしまう典型的な日本のサラリーマン、を養成しているに等しいと私は思う。
いずれにしても、以上の例から、「何々%の食塩水」の意味するところは自明でないことが納得できたと思う。私の提言は、以下の通りである。
例題(1)を次のように書きかえる。

例題(1-改) 塩分濃度5%の食塩水溶液600g に塩分濃度10%の食塩水溶液を混ぜて、塩分濃度7%の食塩水溶液を作りたい。塩分濃度10%の食塩水溶液を何g 混ぜればよいか。(ただし、塩分濃度とは、食塩水溶液における食塩の割合を質量で計算したものである。)

それに、割合の計算が出来るかを試したいのであれば、食塩水である必要は全然ない。次のような問題は、どうだろうか?

例題(5) 昨年度の本校の入学試験の出願者は1000人、受験者は900人、合格者は360人、入学者は240人だった。受験率(受験者/出願者)、合格倍率(受験者/合格者)、入学辞退率((合格者-入学者)/合格者)を求めよ。